研究

システム設計学と産業・社会への実装

大規模複雑システムとは、様々な人工的なシステムが組み合わさることで成立する複雑系としての性質を見せる系である。中核要素の関係が単純であったシステムの成立時に比べ、情報技術の浸透による要素間の連係が高まるにつれ、システムの性能と複雑さは同時に増してきた。システムの複雑さは人間の環境に非常に高い性能と便益をもたらしたが、同時に解決の困難な問題も引き起こしはじめている。これらの問題は、他のサブシステムへの影響伝播により発生する副次的結果のため、伝統的な学術体系の知見に基づいて個別のサブシステムに介入しても解決できない。

このような現状において、大規模複雑システムの問題解決のため、本分野は以下のトピックに取り組んでいる。

    • システムの目的、機能、振る舞いや利害関係、サブシステム間の関係性を記述する方法論の構築。
    • 複雑なシステムの挙動をシミュレートするモデルの開発とパフォーマンスの予測。
    • 異分野の専門家間の深いコミュニケーションとコラボレーションを支援するチームワーク環境の構築。
    • システムの設計に関する意思決定支援。

    • 産業・社会・文化学術のオペレーションのセンシングとデータ蓄積。
    • 蓄積されたデータの解析、シミュレーションとの統合による外乱や環境変化への応答の検討。
    • センシングからオペレーションにフィードバックする実用システムの開発。
    • システムの運用に関する意思決定支援。

産業環境学分野では、これらのシステムの設計や意思決定を支援する方法論を、海上物流サービス、船舶の建造や情報システム開発などの大規模プロジェクトを代表とする産業界の大規模複雑システムの設計に適用し、従来にない産業を創出するための検討を行っている。

また、利用者が予約して乗り合うことで利便性と効率性を両立させるオンデマンド交通の情報システムや、三次元レーザスキャナを用いた数十メートルの超大型部品の高精度三次元計測の精度評価システムなど、レスポンシブな産業や社会を実現するための実用化指向のプロジェクトにも取り組み、積極的に大学の知見を社会に還元している。

システムの設計・再設計の方法論

大規模かつ複雑なシステムの設計は、多くの利害関係者の相互に関連した意思決定の連続により行われる。成熟した国や社会でこのようなシステムを新たに創り出す機会は少なく、既存のシステムの再設計を行う。このためのシステムズエンジニアリングなどの方法論を以下のように整理して研究を進めている。

  • Stakeholder Analysis(利害関係の分析)

システムを取り巻く利害関係者と関係者間に発生している価値の流れをダイアグラム等に記述する。

  • Requirement Analysis(要求分析)

システムに関わる2つの利害関係者間の関係がモノ・サービスの提供者とその受益者(コスト負担者)であるとき、受益者の要求を機能要求・非機能要求に分けて記述する。

  • Systems Analysis(システムの分析)

システムの中で提供されているサービスが、どの受益者のどのような要求を達成するものであるか定義する。また、サービスがどのような技術要素や制度の組み合わせによって実現されているかを、Object Process Methodology (OPM) やSysMLといったシステム記述言語や、これらの言語仕様に基づいたスプレッドシート等により記述する。

  • Tradespace Exploration & Performance Forecast(設計空間の探索と性能予測)

利害関係・要求といったシステムの社会的な側面と、システムのミッションやアーキテクチャという技術的な側面の分析から、利害関係者の要求を達成するための着想を奇抜なものも含めて広く探索し、包括的な設計空間を定義する。新しい着想を実装したシステムがどのレベルで要求を達成できるか、システムの他の要素にどのような影響を与えるかについて、合議や直感ではなくモデルベースで評価する。

モデルベースでの評価では、システムダイナミックス、最適化、離散イベントシミュレーション、データ解析、プロトタイプ開発などを利用する。

  • Decision Making(意思決定)

モデルベースでの評価により利害関係者の要求達成や既存システムの抱える問題の解決に有望な着想を絞り込み、必要に応じて前述のプロセスを反復し、最終的な意思決定を行う。

【参考資料】

研究テーマ

  • チームワーク環境とシステム設計方法論
    • プロジェクトや組織のモデルベース設計
    • グローバルチーム設計
  • システムとしての産業に関する取り組み
    • Technology Infusionによるデジタライゼーションと大規模複雑システムの高度化
    • 海事産業への新技術導入評価
    • レーザスキャナを用いた大型部材の精度計測と加工支援
    • ロボット水槽構想/実験設備のスマート化
    • 作業パフォーマンス評価および人員・設備の最適配置
  • システムとしての社会の課題に関する取り組み
  • 文化学術に関する人間の活動へのシステム設計の観点からのアプローチ
    • デジタルアーカイブの構築と活用

社会人教育プログラム(関連活動)